2017.03.09
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一般企業に勤める「障がい者虐待」の状況 #考察編
一般企業「障がい者虐待」の原因と対策
以前の記事、『一般企業に勤める「障がい者虐待」の状況#1』で、事業規模が小さいと障がい者に対する虐待が発生する件数が多い理由として、「コンプライアンス」という概念がないこと。と申しました。そこで僕はもう少し深く考えてみました。(長くなります。笑)
仮説:経営者がコンプライアンスより大事にしたこと
ここでは、「障がい者虐待が起きた会社」の経営者が、「コンプライアンスの代わりに何を重要視していたか?」という目線で考えます。容易に考えられるのは、やはり、「利益追及」ではないでしょうか。会社を経営する上で、「従業員の生活を守るために利益を求めること」は悪いことではありませんが、一つだけやってはいけないことがあります。それが、利益追求のために人を管理することです。なぜかというと、「利益追及の方法」を「人を管理すること」に求めると従業員のことを考えない経営になる可能性が高いからです。実際に、似たような考えが原因で起きた問題について歴史を振り返ってみます。
1900年代に流行した経営論
1911年に、フレデリック・テイラー(1856〜1915)はある本を世界に発表します。その本の名は、「科学的管理法の原理」です。一言でこの本をまとめると、「究極に『人の効率化』を求めた本」です。
内容は大きく5項目に分けられます。
- 課業(タスク)管理
- 作業研究
- 指図票(マニュアル)制度
- 段階的賃金制度
- 職能別組織
この中に書かれていることで共通しているのは、「従業員には会社管理のもと、その指示通りに働いてもらう」というものです。今でいう「社畜を育てる」という感覚に近いでしょうか。この本は一見、「労働者の自由度が低い仕組み」なので受け入れられないだろうと思いましたが、当時、大ヒットしました。なぜなら、この時代の人々が求めていたのは、「裕福になりたい」ということだったからです。この本では、人の管理で利益追求する経営者のことを「経済人」(労働者は賃金のために働く)と呼びます。さて、この本が大ヒットして何が起こったでしょうか?
経営者の悪用が始まる・・・
テイラーがなぜ「人の管理」で生産性向上を目指したのか?考えられる理由はこちらです。
- 産業革命時代に工場内で起きていた「怠業」「不信」「恐怖」にあふれていた世界を変えたかったため
- 労使の最大繁栄のため
- 従業員の能力を限界まで引き上げ、最高の仕事ができるようになるため
しかし、現実には何が起こったか?
経済人(経営者)は、「科学的管理法」をひたすら労働生産性向上の道具にだけ使いました。そして、その成果を労働者側と分け合うことをしませんでした。つまり従業員のことを「利益追及の道具」として扱っていたわけです。実際に、それが理由で「科学的管理法の導入拒否」のデモを行う労働組合が相次ぎました。
ここで僕が思ったこと
皆さんは、もし自分が経済人の考えをもった経営者で、人をただの「利益追求のための道具」としか思わなかったら従業員にどういう態度で接しますか?もしかしたら、従業員を痛めつけることに抵抗がなくなるかもしれないですよね。それって、障がいのある従業員へ虐待する環境に似ていませんか?少なくとも僕は、この現象を「障がい者が使用者から受ける虐待の状況」と似ている思いました。そこで当時の人たちがどのように変化していったのかが、一般企業での障がい者虐待を減らすヒントとなると思い、さらに調べてみました。
この時代の人々はどういう「改善」をしたのか?
この話の登場人物は、ジョージ・エルトン・メイヨー(1880〜1949)です。1933年に彼が出版した本に、その答えがありました。本のタイトルは、「産業文明における人間問題」です。この本の内容に、3つの調査がありました。
- ミュール紡績部門「離職率250%問題」
- ホーソン工場での実験「選ばれし6人問題」
- ホーソン工場での調査「2万人アンケート」
ここに、一般企業の「障がい者虐待」解決策として、有効な方法があると思ったのでまとめます。(その前にちょっと休憩。笑)
1.ミュール紡績部門「離職率250%問題」
フィラデルフィアの紡績工場に「ミュール紡績部門」という部署がありました。そこでは年間250%の離職率があり(他の事業部門では年間5%)経営陣は頭を抱えていました。そこでメイヨーは、仕事の「単純さ」「孤独さ」が原因であると仮説を立て、「従業員達にもっと休憩時間をとらせてみては?」と経営陣に提案します。そこで経営陣はさっそく従業員に、「みんなが働きやすい環境を作るために休憩を導入します。どのように休憩をとるかはみんなで考えてください!」と伝えました。すると従業員達は話し合いの結果、「私たちは、1日4回10分ずつの休憩を交代でとります。とる順番はみんなで相談して決めます。」と経営陣に答えました。これを聞いた経営陣は、「そんなことをしたら生産性が落ちるのでは。」「利益も下がっちゃうね。」と思いましたが、こちらから提案した手前、黙って見守りました。すると、なんと「離職率250%→5%に改善!」さらに「生産性UP!!」という、まさに棚からぼたもちの結果を得ることになりました。ここで経営陣は、「短い休憩時間の導入のおかげで従業員の職場に対する不満が大きく減った」と考えました。しかし、メイヨーは違う理由を考えていました。
2.ホーソン工場での実験「選ばれし6人問題」
ホーソン工場で行った、ある実験がきっかけでした。テイラーの「科学的管理法」では、「作業効率は照明が明るくなるほど上がる」と言われていましたが、いざ実験すると照明を暗くしても生産性が向上した結果が出たり、照明の変化に関係なく生産性が向上した結果が現れました。そこで、メイヨーは100人の女工さんから6人選んでチームを作り、職場環境によって生産性にどう変化を及ぼすのか?という実験を行いました。その結果、「どの職場環境でも生産性が向上した」という結果になりました。そこでようやく、「科学的管理法」の理論が通用しないことに気づいてきました。
3.ホーソン工場での調査「2万人アンケート」
このアンケートは最初は、「対象を1600人」「質問項目を決めて行う」というアンケート調査でした。それが「2万人(全従業員)を対象」にして現場マネージャと「雑談形式」で行う方法に変わりました。すると結果は、「面接をしただけで生産性が向上した」というものになりました。
ここからが大事!
3つの調査を踏まえてメイヨーの出した結論は以下の通りです。
- 人は経済的対価より、社会的欲求の充足を重視する
- 人の行動は合理的でなく、感情に大きく左右される
- 人は公式(フォーマル)な組織よりも非公式(インフォーマル)な組織(職場内派閥や仲良しグループ)に影響されやすい
- 人の労働意欲は、客観的な職場環境の良し悪しよりも職場での(上司や同僚との)人間関係に左右される
これは人が、「経済人」から「社会人」へ変わっていったことを証明する結果となりました。そしてそれ以降、「生産性向上」には、効率化だけでなく「人の感情」が重要といえるようになりました。これが、現代の「モチベーション研究」や「リーダーシップ研究」、「カウンセリング研究」などにつながる源流です。
参考文献:「経営戦略全史」三谷宏治 著作
一般企業の「障がい者虐待」の対策として、具体的な方法は次回まとめたいと思います。