2017.03.12

ブログ

一般企業に勤める「障がい者虐待」の状況 #3

《実例紹介》心理的虐待が認められた事例 #1

1.通報・届出の概要

  • 障がい種別:知的障害
  • 就労形態:期間契約社員
  • 事業所の規模:100〜299人
  • 業種:宿泊業、飲食サービス業

2.誰からの報告なのか?

  • 市役所が県庁を経由して労働局に報告した事案

3.どういった状況で虐待が行われたのか?

  • 知的障がいのある従業員が、同僚や上司から「遅い」、「早くしろ」など継続的に怒鳴られ、食器を床に投げつける等の嫌がらせを受けたことにより退職に追い込まれた

4.労働局の対応

  • 労働局は、職業安定部(公共所業安定所)を担当部署とし、訪問調査を実施した。雇用先の担当者から事情聴取したところ、通報内容を事実として認めた
  • 労働局は、使用者による心理的虐待であることを認め、公共職業安定所は、他にも就労している障がいのある従業員もいることから、障がい者虐待防止のための職員研修の充実、虐待防止のための体制整備について指導した。
  • なお、労働局は、退職した障がい者本人に復職の意向を確認したところ、その意向はなく、個別労働紛争解決制度の利用は望まなかった。
  • 処理終了後、労働局は県庁に情報提供した。

《今回の問題点》
知的障がいのある従業員への指導は、「遅い」、「早くしろ」ではダメということです。宿泊業、サービス業の現場で安易に想像できるのは、「常にお客様の顔色を伺いながら接客」をしたり、「お客様に迷惑をかけないように短い時間で大量の作業を行う」といったお客様最優先の職場環境です。虐待した人をかばうつもりはありませんが、「お客様に迷惑をかけられない」というプレッシャーが結果的に「障がい者への虐待」につながった可能性は高いです。もし、同僚や上司がその知的障がいのある同僚に「生産性」を求めたかったのであれば、「伝え方」を変える必要があります。

《問題に対する解決策》
例えば、知的障がいのある方の「作業スピードを早くしたい」という課題を解決するアプローチとして、今回は、声かけのミスがありました。「遅い」、「早くしろ」という声かけは、具体的なアドバイスではありませんし、これでは明確な基準がわかりません。以下、「皿洗い」を例題に考えていきます。

〈例:決められた時間で皿洗いができるようになるために〉

  • 基準となるオペレーション(作業)時間を設定する。(1分間で10枚洗うなど)
  • 本人の前にストップウォッチを置いて実際に測定をする。(視覚情報の方が伝わりやすい場合があるため)
  • もし数字が読めない場合には、「砂時計」や「時間が経つと画面が変わるアプリなど」を利用する
  • OJTをして「作業を早くできるポイント」をみつける(「皿を洗剤で磨く工程」や「皿を拭く工程」など)
  • OJTでみつけたポイントの工程を細分化して「ソフト面」か「ハード面」で解決策を考える
  • 決められた時間内で作業ができるようになると継続的にできるように練習または方法を考える

(「ソフト面」とは・・・のスキルや能力を上げる
こと)
(「ハード面」とは・・・使っているを変えたり改良したりすること)

上記が、障がい者雇用をするのであれば最低限、意識しておきたいポイントになります。他にも知的障がいのあるご本人の「こだわり」や「伝えやすい方法」などを障がい者支援者や支援学校の先生などに確認をしておくと良いです。

《実例紹介》心理的虐待が認められた事例 #2

1.通報・届出の概要

  • 障がい種別:知的障害
  • 就労形態:正社員
  • 事業所の規模:30〜49人
  • 業種:サービス業

2.誰からの報告なのか?

  • 県庁から報告があった事案

3.どういった状況で虐待が行われたのか

  • 上司から、「お前、何回言わせるんだ」、「はい、はい、はい」と耳元で急かすように大声で言われる等の叱責(しっせき)を受けた。工場長へ相談すると、自分への叱責はなくなったが、他の障がい者に対して同様の叱責をしていることがわかった。

4.労働局の対応

  • 労働局は職業安定部(公共所業安定所)を担当部署とし、訪問調査を実施した。事業所の関係者から事情聴取したところ、上司は仕事上の注意をする上で、虐待とも取れる荒々しく執拗な叱責があったことを認めた。
  • 労働局は使用者による心理的虐待であることを認め、公共職業安定所は、障がい特性を踏まえて配慮するよう上司への障がい者虐待防止のための研修強化について指導した。
  • 処理終了後、労働局は県庁へ情報提供を行った。

《今回の問題点》
事例1と同様に、知的障がいのある方への声かけの仕方が間違っていたことが考えられます。当たり前のことですが、部下が、「上司の求める仕事ができないこと」に対して、怒って解決しようとすることは、自らの指導スキルがないことを認めているも同然です。これら、「情報不足によるミス」は多くの障がい者雇用先が抱えている課題だと思います。

《問題に対する解決策》
まずは雇用環境の整備として、上司が、「一つ一つの作業をわかりやすく説明できるか」と「障がいについてor 一緒に働く障がい者の情報があるか」が鍵になってきます。

  • 作業については、一つ一つの工程などの意味を「自分の言葉で説明できる状態」で、更にオペレーションでの、「 “段階的なつまずき” に応じて適切なアドバイスができる」必要があると思います。
  • 障がいについては、弊社のSpecial Learningを受講いただくことをおすすめしますが、一緒に働く障がい者の情報については、「その方の人生背景」と「配慮が必要な部分」と「得意なこと」は最低限、把握しておくべきだと思います。

《実例紹介》身体的虐待と心理的虐待が認められた事例 #3

1.通報・届出の概要

  • 障がい種別:発達障害
  • 就労形態:期間契約社員
  • 事業所の規模:100〜499人
  • 業種:製造業

2.誰からの報告なのか?

  • 障がい者ご家族からの通報

3.どういった状況で虐待が行われたのか

  • 職場の上司を含む同僚から、「ボケ!」、「お前がいなくなれば楽になる」と暴言を吐かれる頭をこぶしやヘラで叩かれる。挨拶の仕方が悪いといって就業時間後に長時間残され叱責される。

4.労働局の対応

  • 労働局は職業安定部(公共職業安定所)を担当部署とし、呼出調査を実施した。雇用先の担当者から事情聴取したところ、障がい者への指示や指導の際に、通報内容にあった暴言や暴行及び嫌がらせを行なったことを事実として認めた。
  • 働局は使用者による身体的虐待及び心理的虐待であることを認め、公共職業安定所は、再発防止対策の確立及び障がい者に対する言葉遣いや雇用管理について、障がい特性を踏まえて配慮するよう指導した。
  • 処理終了後、労働局は県庁へ情報提供を行った。

《今回の問題点》
「障がい者雇用を担当した者」「現場で一緒に働く者」との間にコミュニケーションミスがあったのではないか?と考えられます。今回の発達障がいのある方を雇用するに至った経緯はわからないのですが、よくある例で言うと、社長が、「社会貢献だ!」と言って障がい者雇用を進めたが、実際に現場スタッフは「なんか来たで。」というように非常に温度差があることです。これでは、社長は良いことをした気分になるだけで、現場は混乱を起こし、ストレスのはけ口として障がい者に目がいくようになってしまいます。

《問題に対する解決策》
障がい者雇用をするということは、社内全員が「障がいについて」一定の知識をもつ必要があります。本来であればノーマライゼーションの考えをもとに、障がいのある方へ配慮をすることで、当たり前に共存できる社会をつくる意識を共通認識としてもって頂きたいです。しかし、現在(2017年)の障がい者雇用の理由はおそらく「法定雇用率」や「助成金」が多いのではないでしょうか。だとしても、社内全員が、「障がい者を雇用すること」で、「国から援助がある」または「罰金を支払わなくて済む」、「企業のイメージが上がる」などメリットをしっかりと伝えてあげる必要があると思います。個人的には、「障がい者」と一括りに言っても、なかには、「生産性を上げてくれる障がい者」もいれば、現場に「癒しを与えてくれる障がい者」もいるので適材適所に雇用していただけると良いと思います。

(ノーマライゼーションとは・・・障がい者と健常者を区別せず社会生活を共にするのが正常であるという考え方)
(法定雇用率とは・・・従業員50人以上の企業は最低1人、障がい者を雇用する義務があること)

 

参考資料: 厚生労働省プレスリリース平成27年度「使用者による障がい虐待の状況等」